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π結合


概要

「π結合」とはざっくり言えば、原子が伸ばす結合の手がほんのり重なる結合のこと。ガッツリ手を繋ぐ「σ結合」と比べて弱めな結合です。二重結合などで現れる結合で、二重結合のうちの1本目がσ結合、2本目がπ結合になります。

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そもそも「結合の手が"重なる"」というのは聞きなれない表現ですが、詳しく理解するためには大学レベルの電子の知識が必要です。

そこまで深掘りする気がなければ、

  • 実は二重結合の2本は別物の結合で、2本目がπ結合と呼ばれる
  • π結合は弱い結合なので、比較的簡単に切れて付加反応が起こる
  • π結合は少し遠回りで繋がった結合で、回転すると切れてしまうため、二重結合は回転しにくい

という程度に覚えておけば十分です。

詳細

電子雲

もしかしたらこれまで当たり前のように、電子は1粒1粒のパチンコ玉みたいなイメージを持っていたかもしれません。しかし実は、電子は空間に雲のように広がって存在しています。ずっと仲間だと思ってた親切なおじさんキャラが実はラスボスだった、的な展開です。たとえが下手です。

これを詳しく理解するためには量子力学を勉強する必要があります。しかしここでは、最低限高校化学で使える程度に、量子力学の計算から得られる結果だけをふんわり説明します。

電子は、ある1点に固定されて存在するわけではなく、ある決まった空間のどこかに存在します。それも、1粒の電子が空間を動き回るという意味でもなく、その空間のどこかに必ずいるけど、ガッツリ観測するまでは具体的にどこにいるかはわからない、という意味不明な状態です。

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例えるなら、某嫌われ者の昆虫Gみたいな感じです。Gは見つけたら「出た!!!!」となりますが、一度見失うと部屋中どこからまた現れるかわからない恐怖に苛まれます。部屋中どこにも1%くらいGの確率がある、みたいな感じです。たとえが下手です。

以上をまとめると、電子は雲のように特定の空間にふわっと存在していると理解しておきましょう。

電子軌道

原子中の電子は、電子殻の中、さらに言えば軌道の中に存在するのでした。軌道とは、電子殻をさらに細かく分類したものです。初めて聞いた人は「軌道」の辞書を確認しておきましょう。

さて、電子は実は雲のように存在するということでしたが、原子中の電子は軌道ごとに異なる雲の形で存在します。たとえば、L殻の1つの軌道と3つの軌道(と区別する)は、それぞれ以下のような雲の形です。

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なぜこのような形になるかは、量子力学の方程式を計算して得られます。どうしても詳しく知りたくて蕁麻疹が止まらない人は、大学の物理化学などの教科書を確認してみましょう。また、実際にはより複雑な「混成軌道」の考え方も用います。余裕があればこちらも確認しておきましょう。

σ結合

高校化学で共有結合を考えるとき、電子式によって表現しました。しかしこの電子雲を踏まえて考えるとき、電子雲の重なりで結合を表現します(*補足1)。今まで「不対電子を共有するのが結合」と理解していた部分を、「軌道(電子雲)が重なって空間を共有するのが結合」と読み替えるイメージです。

このとき、結合軸に対して線対称に近づいて、軌道の重なりが大きい結合を「σ結合」と言います

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電子はより広い空間に存在できる方が安定で、軌道を共有することで空間を広げています。このσ結合は、これまでの「単結合」とほぼ同じだと思ってOKです。

π結合

結合軸に対して垂直な軌道同士による、軌道の重なりが小さい結合を「π結合」といいます。π結合は重なりが薄い分、σ結合よりも弱い結合です。

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たとえば、エチレンなどが作る二重結合は、1本目がσ結合、2本目がπ結合です。またアセチレンが作る三重結合は、1本目がσ結合、2、3本目がπ結合です。

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π結合は結合軸に対して線対称ではないので、仮に軸に対して回転すると重なりが解消されてしまいます。当然そうなれば不安定になってしまうので、二重結合は回転しにくい結合です(*補足2)。

さらに、π結合は、

  • 結合力が弱い
  • 物理的にσ結合より遠い位置にある

ことから付加反応を起こしやすいです。

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発展

分子軌道法

これまでは「原子が各々に軌道を持っていて、それが重なって結合になる」という説明でした。つまり、原子1粒1粒が存在して、それがくっついて結合する、という流れでした。このような考え方を「原子価結合法」と言います。

一方で、分子が完成してみた結果から考えれば、「2つ以上の原子核が置かれた周りに電子が存在する」というのが分子です。つまり、軌道を持つ原子が近づいて結合というより、分子には分子の新たな軌道が造られている、という捉え方もできます。このような考え方が「分子軌道法」です。

分子軌道法でもπ結合が導出されますが、やはり基本の考え方が違うので一見かなり違う見た目で登場します。たとえば以下のような感じ。

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もしかしたら、π結合を調べるうちに上の図などが登場して、混乱している人もいるかもしれません。しかし、(かなり主観を含みますが)高校化学の助けになるとすれば、おそらくこの辞書の説明(原子価結合法的説明)だと思います。なので、ここで深掘りをストップして先に進むのがいいと思います。

それでももっと興味がある人は「分子軌道法」の辞書を確認してみましょう。

補足

  • (*補足1)「そう考えるのがこの世の真理」というわけではなく、実験事実にできるだけ適合しそうなモデルのうちの1つがこれ、くらいの話です。今回紹介している「各原子が持つ軌道の重なりが結合」というのは「原子価結合法」という枠組みの考え方ですが、後半に紹介しているように「分子軌道法」というまた違った(前者を補完する意味合いのある)方法も存在します。というかそもそも、オクテット則による電子式の表現も、原子価結合法以前にルイスが発明した1つのモデルです。どれが間違っているという話ではありません。
  • (*補足2)90°回転した状態ではπ結合だけ切れたような状態です。逆に言えば、π結合を切る程度のエネルギーを加えれば、一応回転させることも可能です。

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