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ビオ・サバールの法則


概要

電流が作る磁場の式については、高校物理では以下の代表的な3パターンを「覚えるもの」として扱われることがほとんどである。

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理由としては、この辞書のテーマであるビオ・サバールの法則や、大学で学ぶ線積分という数学的道具が必要になるためであるが、雰囲気だけであれば高校数学の内容でも十分理解できるので、電流が作る磁場の式の背景が知りたくて眠れない方は、下の詳細を見てみよう。

そんなに興味がない人は、「なんかハリーポッターの呪文にありそうな公式で示せるんだな」とだけ覚えて、上の公式は丸暗記しよう。

結論から言うと、ビオ・サバールの法則というものを用いると、電流がある位置に作る磁束密度ベクトルを式で求めることができる。 電流素片 が、その点から位置 に作る磁束密度ベクトルは、

で表される(微分形)。これは、ビオさんとサバールさんが実験により得た法則。

この法則の使い方のイメージは、電流の微小部分を取り出し、それが位置 のところに作る磁束密度ベクトルを求めるのに使う。 なので、この磁束密度ベクトルを、電流が通る導線に沿って線積分していけば(つまり足し合わせていけば)、電流全体が、ある定点に作る磁束密度、つまりは磁場を求めることができる。(電場と同じように、電流が作る磁場も重ね合わせられるという事実も、ビオさんとサバールさんの発見による)

詳細

では、少し法則の中身を見ていこう。

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「電流素片」 とは、導線を流れる電流の強さ に、いま注目している微小部分の長さ を掛けたものを大きさとして、向きはその位置での電流の向きとなるようなベクトル量。電流がベクトルなので、電流の微小部分である電流素片もベクトルとして定義する。

はベクトルの外積であり、 から への反時計回りの角を とすれば、

  • 大きさは(スカラー量)
  • 向きは、 から へ右ねじを回したときに、ねじが進む向き

となるベクトル量を表す。(外積についてはここでは詳しく扱わないので、知らない方はガチノビさんの動画を見てみよう。)

がビオ・サバールの法則のメインディッシュであり、残りは各種スカラー量をかければ電流素片が作る磁束密度ベクトルが求められる。

最後に足し合わせるときは、電流に沿って足しあげるのだが、それはつまり数式で言うと、 の方向に足し上げていくということ。(基本的に曲線に沿って積分することになるので、大学数学で学ぶ線積分という道具が必要になる)

では、具体的な公式を導出しながら、ビオ・サバールの法則の使い方を学んでいこう。(以下、単に「磁束密度」と書いたら、それはベクトルだと認識しよう)

①直線電流が作る磁場の導出

まずは無限に長い直線電流が作る磁場について。

下の図のように、直線電流 が、そこから距離 の点Cに作る磁束密度 を求める。

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まず、どの点の電流素片を考えても、 は画面表から裏の向きであるので、足し合わせて磁束密度の向きは画面表から裏の向きであることがわかる。

あとは磁束密度の大きさ を求めていこう。

まずは、線分AB間の電流が点Cに作る磁束密度の大きさ をビオ・サバールの法則で求める。点Oを原点として、Yの向きに座標軸をとる。AB間に任意の点Xをとり、その座標を とおく。点Xでの電流素片が点Cに作る磁束密度の大きさは、

である。これを電流の方向、つまり線分AB間で足し上げていけば良いので、求める磁束密度の大きさ は、

で求められる。( は、 の関数になっているのでまだ注意。ここでは に揃えて置換積分する)

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ここで、 に注目すると、

また、

のときも同様)なので、

を得る。(三角関数の導関数の辞書はこちら

ここで、 を考えると、無限に長い直線電流 が作る磁束密度の大きさ を求めることができ、

となる。( で割れば、お馴染みの磁場 の式になる)

②円形電流が作る磁場の導出

次は円形電流がその中心軸上に作る磁場について。

下の図のように、円形電流 が、中心軸上の座標 (点B)に作る磁束密度 を求める。(円形電流の中心を原点Oとする)

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まず、円形電流上の電流素片を考えて、 の向きを考える(上の図の )。これを円形電流上でぐるっと足し合わせていったとき、対称性から磁束密度の向きは中心軸上正の向きであることがわかる(それ以外の向きの成分は打ち消し合う)。

あとは磁束密度の大きさ を求めていこう。

上の図の点Aでの電流素片が点Bに作る磁束密度の大きさは、

となる( は直交することに留意)。

この中心軸成分は、 とすると、 をかければよく、

と求められる。あとは、電流の方向、つまり円に沿ってこの値を足し上げれば点Bでの磁束密度の大きさが求められて、

を得る。

(厳密には大学で学ぶ線積分が必要だが、「 によらず値が変わらないので、円周の を掛けた」と理解しておこう。)

よって、円形電流の中心Oでの磁束密度の大きさは、 を代入すれば求められて、

となる。( で割れば、お馴染みの磁場 の式になる)

③ソレノイドコイル内の磁場の導出

では②の円形電流の議論を使って、最後に、半径 、単位長さあたりの巻数 のコイルに、電流 が流れているときの、コイルの中心軸上にできる磁場の式を導出しよう。

中心軸上に、以下のように点Oを原点とした 軸を取り、コイルの端点A, Bの座標を とおく。 軸正の向きがなす角をそれぞれ とおく。このコイルが点Oに作る磁束密度の大きさ を求める(向きは、②の議論と同様にして、 軸正の向きとわかる)

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座標 から までの微小区間に含まれる円形電流 が、点Oに作る磁束密度の大きさは、上の 式より、

となる。(注:本来は分母の までわずかに変化していくものの、微小区間なので で近似してOK。例えば の項も、 に比べたとき無視できる)

これを、 から まで足し上げればこのコイルが点Oに作る磁束密度の大きさが求められて、

となる。(点Oを動かしているわけではなく、あくまでもコイル全体が点Oに作る磁束密度の大きさを求めている点に注意)

ここで、

と置換すれば、この積分はスルッと計算できる。

なので、(三角関数の導関数の辞書はこちら

と求められる。(コイルの半径 によらない!)

を考えると、無限に長いソレノイドコイルが中心軸上に作る磁束密度の大きさ を求めることができ、

となって、中心軸上の位置によらない値となる。( で割れば、お馴染みの磁場 の式になる)

ちなみに、今回は中心軸上で考えたが、コイル内であれば中心軸上であってもなくても磁場は等しくなる。

補足

ビオさんとサバールさんは、どっちもフランス人だが別人。たまに、ビオ・サバールという人だと勘違いしている人がいるので、気をつけよう。

また、フランスっぽくおしゃれに「ビオ・サヴァール」と書かれることもある。

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